∞∞∞∞■一級建築士設計製図試験:総評∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 《H22.12.21記》


 設計製図試験の合格者の発表がありました。まずは、合格した皆さんおめでとう!
残念ながら今回不合格となった皆さんには、何と言って上げればいいのか戸惑っています。と言うのは、
ほとんどの受験者が書き終えた試験で、合格基準Tと次点のUとに、いかほどの差が有ったのだろうと
思ったからです。その差は非常に微妙なものに違いなく、ちょっとしたことで立場が違ってきたのでは
と容易に想像がつくからです。でも試験なのだから、何処かで線引きがなされるのは致し方ない。何時
までもくよくよしていても何にも解決しない。前を向いて進もう!

 建築士を目指す皆さんを支援している「E&A」では、何らかの形で応援したいと思って色々と発信
しています。そこで今回は、合格者名と解答例が発表されたので、平成22年度一級建築士試験の総評
をお送りしたいと思います。

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平成22年度一級建築士試験総評

 新建築士試験も2回目を迎え、昨年の1回目の試験では掴めなかった試験制度が何となく解ってきた
気がします。
昨年は事務所ビルでしたので、従来の公共建築からより実務的な民間建築にシフトしたなと、新制度の
変化を感じました。ところが、新制度では単一用途の出題でしたので、事務所ビルでなおかつ単一用途
の出題では或る程度パターン化されて受験者の回答に差が出にくく、結局作図において書き込み量の多
い少ないや記入条件の有無が、合否を決した試験になってしまいました。

 昨年の経緯が有ったので、今年の課題が発表された時は良い課題だと思いました。この課題で有れば
計画そのものに善し悪しが出て、合否が判断しやすくなるなと感じたものです。結局、課題は展示室と
コミュニティー施設っぽい市民ギャラリーとからなる美術館でした。昨年と同様にほぼ全員が計画を終
える事が出来たようです。そうなると合否の判定がよりシビアになり、ちょっとした事が命取りになる
なと思いながら発表を迎えました。

【建築計画】
A.アプローチ
 建築計画は何と言っても、敷地周辺とアプローチ、ゾーニング及び動線につきます。今年の課題はア
プローチの点で言えば、やや受験者を混乱させる内容だったかな?と思います。
まず、建物のアプローチはエントランスホールへのアプローチとして、公園又は遊歩道からでも良い。
としています。でもと言う言葉には、「道路面の北側は勿論のこと」が隠されているので、多くの受験
者は北側アプローチを設定したようだ。公園及び南側に設けたとしたらサブ的に扱えば良かったと思う。
中には西からのみと言う計画も合ったが、美術館が公園の一角にあり、公園と一体となった計画で有れ
ば問題ないだろう。ただし、公園→屋外創作広場→エントランスのように、貧弱なアプローチは問題だ。
また、南側遊歩道からだけのアプローチは、車いす利用者のアプローチが難しく、採点で影響が有ると
思う。一般的でない南側だけのアプローチを計画した人は、公園や遊歩道からのアプローチ記述は、そ
うするのが正解のサインではないかと過剰に反応し、課題文の中に答えを探し求めたせいではないだろ
うか。設計製図試験は、課題文の中に答えを探すのでなく、条件に沿って組み立てて行くものだろう。

B.屋外創作広場
 その他の施設に屋外創作広場が有った。何処に配置するかで今後の展開が随分と違ってくる。公園と
遊歩道との動線を配慮するように要求があるので、素直に両方に最もアプローチし易い南西の角を想定
して進めば良い。ほとんどの受験者は南西角を想定して組み立てていたようだ。
勿論答えは一つではないから別の場所でもダメではないが、その場合は動線に配慮した事が分かる計画
とし、計画の要点でも納得できる説明をする必要がある。

C.動線
 種類の異なるものの動線は混雑させないのが計画の基本である。特に美術館は、利用客と搬入動線が
交差するのは好ましくないので、それらの動線が交差しないように計画すべきだろう。課題文にも特に
動線のことは留意事項として「・・来館者動線、職員動線及び搬入経路が交差しないように配慮する。」
としている。ところが解答例@では収蔵庫や人荷用EVから管理用廊下を通って、その先は利用客の廊
下を搬入路としている。わざわざ課題文に記述しておきながらのこの解答例には驚いた。

何故このような解答例を発表したかを探ってみよう。
1.元々厳格な分離は考えていなかった。
  大規模で格式のある美術館ならいざ知らず、地方のコミュニティーセンターと併用したような美術
  館に厳格な分離を求めるのは現実的でないから。
2.時間外の搬入を考えていた。
  常設展示室の入れ替えは、一年間でも極限られており、規模から夜間もしくは休館日に入れ替えが
  可能で交差が生じないから。
3.画一な計画を嫌った。
  全ての室への搬入路条件は、制限がきつくパズル的計画になり易く、回答が画一化しそうだから厳
  格な分離は考えてなかった。
こんな所では無いだろうか。
一方、解答例@のように展示室にも市民ギャラリーにも搬入経路が全く確保されていない計画の合格率
は低いとの報告がある。しかし、美術館を学習しながら、最初から搬入路を全く無視したとは考えにく
い。計画がまとまらずに、仕方なく設けられなかったと言うのが実状ではないだろうか。そう言う人の
回答は、搬入路の有無に限らず、計画そのものや要点記述が破綻していたため合格率が低かったのでは
ないだろうか。

D.ゾーニング
 今年の課題でのゾーニングは、利用者のゾーンと搬入を含めた管理運営側のゾーンを明確に分けるこ
とだろう。学習した皆さんには、さすがにこの大きなゾーニング分けはできていたように思う。
問題は細部のゾーニングだ。メインの展示部門が2階と階指定があったので、ゾーニングについては、
ノープロブレムと思いきや試験後、建築士関連の掲示板を中心にとんだ騒動が持ち上がった。
2階に研修室を設ければゾーニング違反になり失格もしくは大減点と大騒ぎ。所が、解答例@、Aとも
研修室が2階に設けてある。失格と大騒ぎをした者は、標準解答例だから大減点されても他の減点が少
なかったので合格したのだろうと、大減点を譲らない。果たしてそうだろうか。

 減点を思わせた背景には、次の記述がポイントになったと思われる。エントランスホールの特記事項
に「・・吹抜け部分に展示部門のホワイエへの主動線として階段を設ける。」とある。
この文章と「展示部門は、すべて2階に計画する。」とを合体させてて、2階は展示部門専用フロアー
で、吹抜けから専用階段でアプローチするとイメージを膨らませていないだろうか。
「展示室は2階で、1階に設けちゃダメよ。」と「2階のホワイエには、吹抜けに設けた階段を使って
昇ってね。」と言っているだけなのに、「この階段はホワイエに通じる専用階段で無ければならない。
だから、研修室を2階に設けたら別の階段が必要。」と妄想はどんどん膨らんでしまう。2階は展示部
門だけの構成で、他の部門を混在させなければすっきりするだろう。しかし、敷地の都合等で他の部門
を2階に上げた方が全体にまとまるようで有れば、それで良いのではないか。
それに部門分けでは、展示室と市民ギャラリーを同一部門にしているが、かたや地元出身の著名画家の
作品展示で、こなた市民サークルの作品展示や多目的ホール的な使いかたをする。幅広い使われ方で、
あえて専用階とするような内容ではないだろう。便宜的にまとめられた部門にこだわるのでなく、中身
を良く考察して取り組むべきだ。

 部門とゾーニングに関してついでにもう一言。
課題に共用部門がある。エントランスホールもミュージアムショップもアトリエも研修室もレストラン
も共用部門としている。
受験者の中には、同じ部門の室は、ゾーニングとして何が何でも1箇所にまとめなければならないと考
えている人が居る。そう言う考えで、研修室を展示部門と一緒にするのは間違いと思っているとすれば、
大きな間違いだ。直ぐにでも改めなくてはならない。
課題文では往々にして、その他の室を共用部門としてまとめている。これらの室は必ずしも共通点をも
ってまとまっている訳ではない。便宜上共用でまとめているだけで、それぞれにつながりは特にない。
ワークショップなどは、準備室とでアトリエ部門としても良いくらいだ。
課題文の部門分けを無条件に取り入れるのでなく、少し中身を考察することも必要だ。

 ゾーニングで大事な要素に、周辺環境が有る。今回の条件では南側の河川敷と西側の公園が良好な要
素となっていた。良好な環境は積極的に取り入れは計画にしたい。ホワイエの位置などは自ずと決まっ
てくる。


【構造計画】
 構造は、RC造、SRC造又はこららの併用とし、・・・梁についてはS造としても良い。と指定が
あった。無柱のロングスパンにどの構造で対応するかがポイントだが、どの種別・形式でも可能だ。
ほとんどの受験者はRC造+S梁で計画したようだが、どの種別・形式を採用しても良いだろう。ただ
し、それらを採用した理由を正しく記述していなければ、どの形式でも減点は覚悟しなければならない。

 構造に関して、昨年の課題発表と今年の課題発表に違いがあったのに気が付いただろうか。
「E&A」では対策4で指摘したが、昨年は「要求図面に新たに図示させるもの」として、「耐力壁等
の位置、柱・梁等の断面寸法」を図示するように前もって告知してあったが、今年は一切告知がなかっ
た。当日の課題文の要求図面で、柱・梁等の断面寸法の記述は要求していたが、耐震壁は一切触れてい
なかった。
このように美術館は用途上耐震壁を設けるような建物ではない、と試験元が示唆しているにも関わらず、
また課題でも要求していないにも関わらず、耐震壁をあえて設けた受験者が少なからず見受けられた。
それでもバランス良く設けられたら問題ないが、無理矢理設けた感が強い。解せない!

 伏図の表示は2階からの見下げ図だったが、今年も2種類の表示方法が示された。解答例@では、梁
を点線表記、解答例Aでは実線表記となっている。これは試験元の解説が欲しい。
「E&A」では、昨年新試験で伏せ図が出ると分かったとき、表示方法を問題視した。設計に於いての
正統は点線表記のようだが、実務では点線表記も行われている。混乱するから指定して欲しいと述べた。
何故なら、表記の仕方で時間がと出来が随分と違うからだ。無条件で実線表記でOKとなれば全員実線
表記に走るだろうし、減点が有るとすればどの程度かは知らせるべきだろう。これらは設計製図の能力
とは関係ない事だ。新試験は受験者の負担を軽減すると言いながら、現状は時間的負担は増えた。ここ
は、実線表記でOKとすべきだろう。

【設備計画】
 設備は空調、給排水、電気とも適切に設ける課題だった。美術館において特に空調方式は重要である。
しかも、方式によって機械室スペースが大きく異なるので計画上影響を与えたと思う。
また、設備室の面積及び床面積に対する割合を記述させた意図は、方式によって一定の基準を持って採
点したのだろう。受験者は用途に応じた適切な方式と共に、適切な面積も要求される。
標準解答例では詳しくは述べられていないが、設備の記述は構造以上にハッキリと選択の理由を表す必
要が有っただろう。設備については年々進歩しており、旧態依然としたテキストでは時代遅れの感があ
る。今後、省エネを中心に新しい設備方式を積極的に取り入れる努力は必要だろう。これは受験者のみ
ならず、既得者にも言える事だ。

【計画の要点】
 計画の要点の記述が始まって2回目となった今回の試験で、とうとう合否のキーポイントとなったよ
うだ。従来の試験で有れば合格レベルの計画でも、不合格になっている者がいる。やはり要点の記述が、
昨年以上に影響した感じを受ける。
試験元は、「公表することにより、解答パターンが定型化するなど、適正な試験実施に影響を及ぼすこ
とが想定されることから、概要に留めています。」として詳細を控えたので採点の基準は解らないが、
各項目とも具体的に記述することを要求している。従って、計画に当たって自分なりの方針や意図がし
っかり持ってないと、なかなか記述し難い。漠然と室を並べたり、曖昧な知識で計画すれば、即、破綻
したのではないだろうか。また、試験までの準備期間に自分の言葉で表現するのを怠り、参考記述を丸
暗記するなど真剣に取り組んでないものは影響を受けたであろう。中には記述の重要性を認識せずに、
記述時間を出来るだけ省く気持ちから、行数が少ない者もいた。次回から、より意識を持って望まなく
てはならないだろう。試験元がせっかく言い訳の場を与えてくれたのに、それを活用しない手は無いよ。

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【あとがき】 
 設計製図の試験が終わって合格発表までの間、建築関連掲示版等で色々な意見が出されました。掲示
板で発言している人は受験者の中のほんの一握りでしょうが、発言しないまでも心配で覗きに来た人は
多かったと思います。
印象に残ったのは、強く発言する人々が教条的であった事です。建築設計という世界で、こうでなけれ
ば駄目!とまるで答えは1つかのように、主張するのはいかにも教条的で可笑しかった。

<教条的に考える人> 
 教条的な考えの人々は、動線交差は絶対にしちゃ駄目!搬入路は必ず確保と部分に固執してしまう。
最後には曲がりくねってでも搬入路が確保されたことで安心してしまう。計画の善し悪しは部分評価で
なく、全体的な総合評価だよね。だから、ぱっと見の評価が、あながち間違いではない。

 教条的な考えを持つ人や課題文を全て満足させようとする人は、知らず知らずの内に受け身の状態に
なっていないか。減点を怖がり、積極的に自分の考えを披露できない。課題の条件に沿って進めるのは
当然ではあるが、全て満足させようとするから何処か無理が生じてしまう。多少言い訳が出来る範囲の
欠点は良いではないか。言い訳は計画の要点でしっかり言い訳しよう。

<合格レベル>
 標準解答例は合格水準の標準的な解答例としているのであって、模範解答例では無いことは認識して
置くべきだ。欠点を持っていても、或る基準に達した計画で有れば及第なんだよ。逆に、欠点だらけだ
から、全てを是として参考にしてはいけない。幸いに2つの標準解答例を示してくれているのだから、
2つの優劣は認識しておこう。

 試験では或る程度のレベルを確保しなければならない。いわゆるハードルの設定は、時間と相談して
決めることだ。易しい問題にも関わらず最初からハードルを下げてしまっては、自分の計画が一番お粗
末だって事になりかねない。相対的試験の難しいところだ。少なくとも初めは理想を高く掲げ、徐々に
ハードルを下げる以外にない。

 ハードルをの上げ下げが出来るのは、要求に巾のある事項に限ることで絶対下げられない事項もある。
階指定、位置指定、面積指定、高さ指定など数値的なものの違反は即減点を覚悟しなければならない。
ここで言うハードルを調整するものは、・・・配慮する。・・・出来るようにする。・・・適切に計画
する。・・・に留意して計画する。など巾のあるもので、計画の後に摺り合わせができるものと考えれ
ば良い。こういう巾のあるものは出題元と食い違いは有って当然であって、計画の要点記述でカバーし
得るものだ。
 では、カバー仕切れないものとは、何だろう?・・法的に、また技術的に建たない建物を計画したり、
物理的に使えない建物を計画した場合は未熟と判定されるだろう。これらのミスは、客先と何度か摺り
合わせをすれば解決できると言うものではない。取り返しのつかないミスで、建築士としての信用を無
くしてしまう。
ここで言う法的とは集団規定的な根本規定で、技術的とは構造的に無茶なスパン割などで、物理的に使
えないとは、通れない廊下や頭を打つ階段など空間構成が成立しないものなどを考えて欲しい。

 では、法的、技術的、物理的にクリアーすれば、どんなプランでもあり?・・・とはいかない。
それではほぼ全員が合格だ。大事なことは、客先にこんな設計者で大丈夫かなと思われないことが重要
で、くねくねした廊下、雑然としたまとまりを欠く計画では、いくら相手が素人と言っても、素人なが
ら大丈夫かなと思ってしまうよ。
                          
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◆今日はここまでとします。

 試験が終わって、初めて理解できる言葉もあると思う。少し回りくどい文章となったが、次回に活か
して貰えたらと思う。
時々更新します。今後も続くよ!乞うご期待!

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