■建物診断の目的

1【地震対策】  

阪神淡路大震災から、はや10年の年月が流れ、この間私たちは、震災から多くのことを
学び、教訓としました。
まず、あの大震災で多くのビルが倒壊する中で、何事もなかったかのように凛とした姿で
建つ多くのビルが存在したことです。このことで、私たち建築に関係する者は「新耐震」
と言うもの正当性を強く意識しました。

建物の構造設計は、その時代の構造設計基準に基づいて設計されます。
しかし、設計基準は不変なものでなく、大きな地震を経験する度に基準は見直され強化さ
れてきました。
中でも1978年に発生した宮城沖地震の被害分析から、これまでの構造に対する考え方
が大転換されたのです。これ迄の基準は大幅に見直され、1981年に「新耐震設計基準」
として改正され施行されました。
この「新耐震設計基準」で設計された建物は、阪神淡路大震災を始めその後の多くの地震
でも、ほとんど被害を出さずに済み、新基準の実効性が認められ高く評価されているとこ
ろです。

今や日本は地震の活動期に入ったと言われます。昨年も新潟、福岡など活断層の動きで大
きな地震が起こりました。更に、近々に発生すると言われているプレート型の東海、南海、
東南海地震を前にして対策が急がれるところです。
既に、学校等の地域の拠点となる公共施設に対しては「新耐震」が1つのキーワードとな
って、新耐震以前の建物に対して「耐震診断」を行い、補強が必要で有れば補強をし地震
に備えています。

しかし、全国には、この「新耐震設計基準」以前の基準で建てられた建物が多く存在しま
す。これらの建物はいったん地震に遭遇すると、人的にも物的にも甚大な被害が予想され
ます。起きる前の早めの対応が急がれています。


2【劣化対策】

また、丈夫な建物と言われてきました鉄筋コンクリートの建物が、昨今の大気汚染等の影
響から、コンクリートの中性化の速度が急速に早まっています。
中性化とは、コンクリートのアルカリ成分が空気中の炭酸ガスと結びつき、アルカリ成分
が中性化してしまうことです。
中性化してしまうと、それまでアルカリ成分で守られていた鉄筋は錆びてしまいます。
また、錆びる時に鉄筋の体積が膨張して、コンクリートをも破壊してしまいます。こうな
ると地震以前の心配をしなければなりません。

地震や老朽化をむやみに恐れる必要は有りませんが、高をくくり楽観視するのも良くあり
ません。まずは、建物の状態を知ることが第一歩ではないでしょうか。建物の劣化は必ず
兆候が有ります。その兆候を見逃すと、取り返しの付かない事になってしまいます。
建物診断は、建物の健康診断、体力測定と言えます。


3【不良工事対策】

昨今は建築工事に対する信頼が、大きく損なわれています。個人の住宅を巡ってのずさん
な工事やリフォームだけでなく、公営住宅での梁貫通による主筋切断事件や、或悪徳業者
ぐるみとも言える構造計算書偽造事件など、連日新聞やテレビを賑わさない日がないほど
です。ここまで意図した犯罪行為でなくても、工事上の不良行為が跡を絶たないのは残念
なことです。
これらの不祥事は、ほんの一部分の悪徳業者によるものと信じたいものですが、残念なが
ら私の体験した中で、日本の超一流と言われる建設会社にも2例ほど不具合が発見されま
した。誰を信用したらいいのか、全てがグレーに見えてしまうのが残念です。

やはり、テレビで名が売れているとか、ノレンや看板で判断するのは危険なことですね。
担当する個人個人が、建築に対して如何に責任をもって取り組んでいるか、如何に建築を
愛しているかではないでしょうか。

top pageへ                                    次へ