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建築知識
 
029号



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  ◆◇◆                          ☆建築雑知識            029号
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 ■■■■■ Engineer & Architect group 建築企画
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■住宅性能表示の評価基準(8)音環境−その1

 古来の人々は、雨露をしのいだり、外敵(蛇や狼など)から身を守る為に屋根や
 壁を作り、その中で生活をしてきました。
 昔の外敵が多い状況の中での生活は、身を守るために絶えず外の様子を把握する
 必要が有ったと思われます。
 騒がしい虫の音が一瞬に静寂に変わる。この時人々は、敵か味方か分からないが
 誰かが身近に迫って来たことを悟ったでしょう。また、枝のざわめきで風が出て
 きたことを知り、風への備えをしたのでしょう。
 このように昔の人は、「音」を状況把握の手段として取り入れてきました。

 この頃の時代では、今で言う「音環境」すなわち音対策は、人々が「住」を構え
 る上では大した要素ではなかったと推測されます。
 ところが現代では、「音」そのものが外敵となり、「音環境」は様変わりです。
 交通騒音、工事騒音、外宣活動、ピアノ音、オーディオなど、昼夜となく廻りか
 ら音が溢れてきます。

 現代での「音環境」はこれらの音の遮音対策といえます。音対策は外からの音を
 遮断するだけでなく、貴方が外へ出す音(加害者としての音)を遮断する事も含
 みます。

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【音】

★音を認識するメカニズムは非常に複雑です。
 単純には空気の振動が、人の鼓膜を振動させて、鼓膜→聴覚神経→聴覚皮質→
 視床下部→・・・・・を通して頭脳に伝達され認識されます。
 だから、「空気のない真空では音は聞こえないよ。」と学校で教わりましたね。

 実は、音は2つの方法で伝わってきます。
 1)先に述べた、物の振動が空気介して伝わる。
 2)物の振動が、直接身体を通して頭蓋骨に伝わる。
 実際の音の伝達は、(1)(2)が複雑に組み合わさって伝わります。

★一口に「音」と言っても、音には幅広い周波数帯で存在し、固有の波形を持って
 います。世の中に存在する音はきれいな山や谷の波形で構成される純音でなく、
 色んな波形の音が組み合わさって出来た複雑な波形で出来てます。
 それも時々刻々と変化し、決して一定の波形を保ってはいません。

★このような音も、時には音楽となり、また時によっては騒音にもなると言う不思
 議な存在ですね。

★不快音は何も大きな音とは限りません。小さな音でも、周波数や波形によっては
 勘にさわる事もありますし、一度付いたら耳から離れない音も有ります。

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【空気伝播音】

 一般的に空気を伝わってくる音の遮音は、「質量則」と言う法則に従います。

 「質量則」とは遮断する材料の密度が高ければ高いほど、遮音効果は大となる法則
 です。密度が高いとは、同じ大きさの固まりでも重ければ重いほどと言うことにな
 ります。ボードよりコンクリート、コンクリートより鉄、鉄より鉛と言う具合です。

 ちなみに、鉛は解体現場の防音シートや防音パネル等に使用されたり、レントゲン
 などの放射能の遮断にも使われている遮音性能の高い材料です。
 只、いくら質量の高い材料でも、隙間があってはその効果は半減します。その為に
 鉛を含んだ鉛コーキングで隙間を埋めると、ある程度解決が付きます。

◎コンクリート造の建物は質量も高く、一体成形で気密も高いので、遮音が優れた
 構造と言えます。

○鉄骨造の建物は柱、梁の構造体のみが鉄で、壁、床まで鉄と言うことはありませ
 んね。
 壁はボードや、ALC版、モルタル塗りなので、コンクリート造より隙間も出来やす
 く、遮音性能は小さくなります。木造も同様です。


★「熱」と同じように「音」でも、窓の部分は遮音性能が極端に落ちる部分です。
 壁をいくら遮音性能の高い仕様にしても、窓が大きい建物では遮音性能は期待で
 きません。普通の窓ガラスは精々3〜5mmの厚みしかなのですから。
 外からの防音を気にするので有れば、壁だけでなく開口部も気にしましょう。
 建具は防音サッシ、ガラスはペアガラス。
 これで暴走族が走り回っても、安らかに眠りにつけるでしょう。

★このように「空気伝播音」は材料の性質を事前に知り、遮音性能の高い物を使用
 すれば、ある程度の遮音を確保することが出来ます。
 もっとも施工が悪ければザルになってしまいますが。

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【固体振動音】

 空気を伝わってくる音と比べて、やっかいなのが固体振動音です。住宅での問題は、
 この固体振動音と言っても過言ではありません。
 実際の個体振動音は、耳を床、壁に直接押し当てない限り直接聞くことはないので
 すが、固体振動音と空気振動音が複雑に絡み合って聞いています。

 例えば、太鼓をバチが叩く
   →太鼓の革(膜)が振動 ・・・固体振動
   →太鼓の中の空気が振動 ・・・空気振動
                  この時太鼓の中の空気は逃げ場がないの
                  で圧縮されて、尚強く反対側の膜を叩く。
   →太鼓の反対側の膜が振動・・・固体振動
   →太鼓の外側の空気を振動・・・空気振動
   →耳

◆固体振動→空気振動→固体振動→空気振動→耳となります。
 この時、いわゆる太鼓の共鳴増幅が働きます。

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例2、配水管に水を流す。
   →管の中を渦を巻いて落下・・・固体振動
   →竪管が振動する。   ・・・固体振動
   →竪管が廻りの空気を振動・・・空気振動
   →耳
  
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例3、コインやスプーンを床に落とす。
   →床が衝撃を受ける。  ・・・固体振動
   →床材から床躯体に伝播 ・・・固体振動
   →床躯体が天井内空気を振動・・空気振動(この時、太鼓増幅現象発生)
   →天井内空気が天井材を振動・・固体振動
   →天井の廻りの空気を振動・・・空気振動
   →耳

◆床衝撃音は、床に落とす物により衝撃音の伝わり方は違ってきます。
 これは音の性質の1つで、軽量床衝撃音と重量床衝撃音とに分けます。

◆重量床衝撃音は、人間が飛び跳ねたり重い荷物を落としたりした時に発します。
 重量が重いと、床仕上げ材だけでなく床の駆体までも振動させ、低い揺らすよう
 な音になります。
 これは床仕上げ材を代えても解決しませんが、上階の人が少し注意すれば防げる
 事です。また、コンクリートの厚みが、厚ければ厚い程効果があります。

◆軽量床衝撃音は、床仕上材の材質が大きく影響します。反発するような堅い物ほ
 ど影響は大きく、カーペット等の衝撃を吸収するような材料は影響は少なくなり
 ます。
 マンションのフローリングが近隣騒動の種となるのはこれです。

 
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例4、階下のポンプの騒音
    ポンプが振動     ・・・固体振動
   →コンクリート躯体を振動   ・・・固体振動
   →躯体と内装材間の空気振動・・空気振動(この時、太鼓増幅現象発生)
   →内装材振動      ・・・固体振動
   →室内空気振動     ・・・空気振動
   →耳

◆ポンプ騒音では平成12年秋、大阪地裁で1つの判決がありました。
 これは「ポンプ室が住戸の下に有っても影響がない。」との説明で購入したが、
 実際の住戸内での騒音は酷く、購入者が裁判に契約無効を訴えたものです。
 裁判所は、絶えがたい騒音と認定し、買主の言い分を認めた判決です。

(解説)ポンプの騒音が空気伝播音だけで有れば、ポンプ室を吸音したり、空気取
    入れのガラリや、換気口等を防音対策すれば、ほぼ解決がつきます。

    裁判にまでなったのは、ポンプの振動が何らかの形でコンクリートの躯体
    を振動させたからでしょう。
    躯体を振動させると上記の固体振動と空気振動で、外で聞いたポンプ音よ
    り大きな音となる場合があります。
    また、騒音は音量の大小だけでなく、音の周波数などが影響します。
    耳鳴りのような高い音や、地響きのように身体を揺する低い音などは、音
    量計では小さな音量でも不快な騒音です。
    一端躯体が振動すると、部屋の廻りの天井、壁材が振動するので、中にい
    る人にはステレオ的で、ヘッドホーンで聞くように頭の中芯から音がする
    ような不快な気分になるのです。
    音楽のような快い音で有ればステレオも楽しいでしょうが、耳鳴りのよう
    な高周波や身体を震わせるような低周波であれば、不快なだけでなく精神
    にも影響が出てくるのは容易に想像がつきます。

    躯体伝播音は、震源と遠く離れたとんでも無い所で影響が出てくることも
    特徴の1つです。建物の状態、ポンプの取付け方法などが影響するのでし
    ょうが、予測が付かないところで発生するのも解決を困難にしています。
    一概にこうすればこうなると言えないのが躯体伝播音なのです。

    解決は、ポンプの振動を躯体に伝えないことに尽きます。これは徹底して
    縁を切らないと解決しません。
    事後処理では、なかなか解決できないことが多く、それだけに設計の段階
    から慎重に取組む必要があるのです。

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★用語の説明コーナー★   
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 ペアガラス・・・2枚のガラスの間に12mm程の中空層を設け、2枚を一体とした
(複層ガラス)  ガラス。この中空層が断熱にも遮音にも有効に働きます。
         
         普通中空層を設けた2枚の板は太鼓増幅現象を起こしやすいの
         ですが、中空層を真空にしたり特殊なガスを注入する事で遮音
         性能を高めています。
         
         断熱用と遮音用とでは、若干仕様が異なります。遮音用は断熱
         も高い数値を示しますが、断熱用は必ずしも高遮音とは言えま
         せんので要注意です。
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★編集あとがき★
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                       編集発行:E&A建築企画 事務局
                         E-mail:jim@kentiku-kikaku.com
                         http://www.kentiku-kikaku.com/


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