∞∞∞∞■『一級建築士設計製図試験を振り返って』∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞《H18.11.5記》


10月8日に1級建築士の設計製図試験が実施されてから、早1ヶ月が経過しようとしています。
この1ヶ月という月日は、試験を受験された皆様にとっては非常に長い月日に感じられているのでは
ないでしょうか?この一月の間は、書き上げた達成感と振り返って気が付いたミスの焦燥感との狭間
で気持ちが揺れ動いたことと思います。掲示板等でも色んな根拠のない噂が出回っていたようですね。
でも、それも今はだいぶ落ち着いて来たようですね。
あと一月と数日もすればすべてが分かるのですが、その間ただモヤモヤしとくんじゃなくて、今年の
試験を一緒に振り返って見ましょう。
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【今年の課題の特徴】

1.全ての所要室に階指定があり、階構成も複雑でなかった。

  ・・・地下1階:駐車場、機械室
       1階:診療所、レストラン、集合住宅の共用部
     2〜5階:集合住宅(1フロア5戸:各階同じ)


2.真北の方位が振れていた。

  ・・・本来、住宅には日照、採光、通風は欠かせない要素である上に、設計条件前文Aであえて
     要求されている。住戸の南東又は南西向きは外せないところ。周辺状況の緑豊かな公園に
     目を奪われると、つい北東向きの住宅も検討してみたくなるが、計画案は出題者の要望に
     沿わなければならない。
     出題者の要望はAの通り、採光日照、通風を期待しているものであり、景観等は絶対では
     ない。景観は住宅以外の他の施設で反映すべきだろう。


3.道路条件の1つが、敷地と段差のある平行2面道路である。

  ・・・敷地と道路の段差は、アプローチに多大の影響をもたらす。近年の課題にはハートビル法
     の記述はないが、段差があるとフラットに比べ格段に処理が難しくなってしまう。
     一般的に段差はマイナスと捉えられるが、今年の課題は地下駐車場が含まれていた。地下
     へのスロープのことを考えると、段差の分だけスロープが短くなると言うメリットもある。
     また、南西道路の方が幅も広く、駅に向かう道路であることを考えると、南西道路が人通
     りの多いメイン道路として扱うべきであろう。
     段差のメリット及び人通りを考えると、地下駐車場へのスロープの位置は、必然的に北東
     側の道路からの進入となる。


4.住宅が1LDKや2LDKと少人数の世帯向けで有った。その割に住戸面積が一般的な面積
  よりかなり大きめであった。

  ・・・この設定は何を意味しているのか?
     設計条件を確認してみよう。今年の課題は集合住宅だ。
     その集合住宅に要求されているものは、レストランや診療所を併設し、多様な生活様式に
     対応できる集合住宅となっている。
  ・・・住宅とレストラン、診療所の組み合わせで多様な生活様式とは?この問いかけに対して解
     答者(設計者)としては何らかの方向を示さなければならないだろう。
     これに対する答えは、人それぞれに色々と有ると思う。正解は一つで、こうなければなら
     ないと言うものでもないだろう。
     私の場合は、高齢化社会に対応した集合住宅として捉えた。
     まず、面積は大きいが部屋数が少ないこと。次に診療所との組み合わせだ。じゃぁ、レス
     トランは?と聞かれると少し困ってしまうが、高齢化すると食事の準備も大変だ。まして
     一人者となると、つい外食ですまそうとなるだろう。・・・まっ、こんな所かな?


5.構造に関する条件があった。

  ・・・昨年の耐震偽装事件を考えると、構造を取り上げるのは想定内のことだが、その要求の真
     意が掴みかねる記述となっている。「地下部分の計画と地上部分の計画が、構造的に整合
     性のある計画とする。」
     この整合性の意味するところは、何?・・・チャレンジ奮闘記でも述べたように、最初は
     地下の部分の柱がそのまま地上階に伸びて、地下のすべての柱が地上の柱と連結しなけれ
     ばいけないのかな?と思ったが、1階のボリュームは地階程大きくない。
     屋外のその他の施設(駐車場等)をピロティーにして柱を伸ばすべきか?とも考えたが、
     1階の柱とは結ばれたとしても、2〜5階は同じになりようがない。従って、この解釈は
     意味がないと結論づけた。だが、釈然としない。・・・地下駐車場の斜路の幅に制限があ
     ったため、「地下のスパンと地上のスパンをずらすような計画はダメよ!」という当たり
     前の記述だろうか。例え記述して無くても減点だろう。あえて記述したと言うことは失格
     若しくは大減点だと念を押すための記述だろうか?


6.ゴミ箱が10uと大きかった。

  ・・・受験者の多くの皆さんは、1箇所10uと読んだと思う。私も最初は1箇所を前提にして
     進めた。しかし、1箇所にするとどうしても異種動線の交差や、動線の距離など無理が出
     てくる。再度課題を読み返すと、何も1箇所とは書いてない。
     もともと、1箇所に10uもの巨大なゴミ置場に不自然さを感じていたので、迷うことな
     く住戸用と業務用の2箇所にした。



【今年、話題になった論点】

1.北東アプローチ

  ・・・メインアプローチは南西道路側であることは、異論の無いところ。まず、道路幅員が大き
     い、次に駅まで約200mと直結している、道路と敷地がフラットであることなどが理由。
     問題は北東側からのアプローチ。敷地周辺環境からすると、北東側はメインでは無い。
     メインではない道路からのアプローチが必要か否かである。
     私はこう考えた。
     @サブ道路が歩道付き道路であること。
     A幅員が12mと結構大きかったこと。
     B平行した2面道路では、サブ側からのアプローチが容易でないこと。
     等から、何らかのアプローチは必要と考えた。

     問題は、敷地と道路の段差処理である。誰でもアプローチするためには、スロープを設置
     しなければならない。屋外スロープは1/15勾配と規定している。1/15勾配は車いす用と解
     すべきだろう。課題文には記述されていないが、車いす用となると高さ75cmごとに踊り場
     が必要となってくる。
     ・・・要は、かなりのスロープスペースが北東側に必要になると言うことだ。計画上この
     スペースが確保されれば何の問題もないのだが、地下駐車場のスペースが結構広くなって
     しまう。スロープを道路側に設けることは、はなはだ困難。隣地との隙間に設ける手もあ
     るが、一直線では2×15+1.5×2(2箇所の踊場)=33mにもなる。スロープを折
     れスロープにすると、隣地との空きが非常に少ない無理な計画となる。

     あれこれ考えた末、スロープって有った方が良いに決まっているけど、すべてのアプロー
     チにスロープが必要だろうか?
     診療所に来る人は車を利用するだろうから、メイン出入口を利用する。レストランに車い
     すで来る人は居ることはいるだろうが、何も北東側から入らなくてもメインの入口から入
     れるようにメインの入口に通じる敷地内ルートが有ればいいのでは?・・・と考え、敷地
     内ルートを計画したけど、そうなると動線が複雑になってしまう。
     結局、動線を整理する意味で、北東からのアプローチは階段とし、スロープアプローチは
     住民用に限定した。


2.住棟の隣地からの距離

  ・・・「今年の課題の特徴」でも述べたように、住居で大切なことは採光、日照、通風である。
     また、人々が日常生活をおくる場であることを考えれば、隣地から或る程度距離を取るの
     のは、当たり前ではないだろうか。まして、設計条件で日照のことを唱って有れば、計画
     上当然配慮しなければならない。
     では、どの程度離さなければならないか?
     課題では地域が限定されてないのでシビアな寸法は出ないが、一般的に正午(南中時)で
     高さの1.5倍〜2.0倍の影になる。当然正午が一番影が短い時間帯だから、その前後は
     時間とともに影は長くなる。・・・アバウトだが、約7〜8m離さなければならない。
     今年の課題は事前に集合住宅と分かっていたのだから、当然押さえていなければならない
     数字であった。また、集合住宅としての特徴に生活のプライバシーがあげられる。この点
     からも隣地からの離隔距離は考慮されなければならない。
     更に、例え隣地が空地であったとしても、将来において建物の建設は考えられるから、隣
     地からの充分な離隔距離は必要なことである。   


3.日影の件

  ・・・今年の課題文には例年記述されている「なお、日影についての特別の配慮はしなくても良
     いものとする。」の記述が無かった。だから、日影を検討して計画しなければならないと
     言う者も居た。
     しかし、近隣商業地域の制限基準は各自治体に任されている。課題では計画場所が明示さ
     れて無く、検討しようが無い。そもそも一級建築士のような国の試験に於いて、それぞれ
     の自治体の条例で定めることを反映させることは有り得ないことだ。
     だから、今年は記述漏れではなく、今後も日影の記述はされないだろう。
     

4.駐車場の斜路幅

  ・・・駐車場の記述は、その解釈を巡って色々と論議された。「駐車場へアプローチする車路は、
     有効幅員5.5m以上、」の記述の車路は、アプローチする取付スロープ部分を言うのであ
     って駐車場内の通路部分は幅員規定が無い。との主張については賛同しかねる。なぜなら、
     続く言葉に「傾斜部の縦断勾配1/6以下、梁下2.3m以上とする。」と記述されている。
     先の車路がスロープ部分を指すので有れば、最初から「車路」は「斜路」と表現するであ
     ろう。ここで言う車路は、傾斜部(スロープ)を含めて車が通行す全ての部分を指すと解す
     るのが妥当だろう。
     また、斜路を含めて駐車場だから、駐車場へアプローチする車路とは、屋外の平坦部を指
     すと言う主張は、指定階が地下1階になっていることと、その他の施設での記述でなく、
     所要室の中の記述であることから、明らかな間違いで有る。
     言葉尻を捉えた解釈をするより、素直に中身を汲み取るようにしないと間違ってしまう。
     スロープ部分だけ幅規制しても変だろう。


5.地下駐車場へのスロープは屋外、屋内?

  ・・・これはハッキリしている。傾斜部の記述は所要室の中の記述である。所要室は、建物内の
     施設であるから、傾斜部は建物として構成されなければならない。すなわち、柱、梁、壁
     等で囲われている必要がある。だから、傾斜路を含めスパン割りには十分配慮する必要が
     ある。
     「スロープ部分の上部に他の施設が無い場合は、上部はただの屋根だけになってしまう。
     それだったら、建物にする必要が無いじゃないか。」と主張する者もいるが、スロープ部
     分を建物としないと擁壁で囲うことになる。スロープ部分は別構造だから、ジョイント部
     分は当然エキスパンションジョイントにしなければならない。
     出題者はスロープ部分を含め構造的に一体を期待したとも考えられるし、屋根を架けて地
     下への雨の進入を少なくしたいと期待したとも考えられる。課題に沿って素直に答えよう。


6.地下への管理階段

  ・・・今回地下には住戸用駐車場と共用の電気・機械室が計画された。駐車場は住戸部門なので、
     住戸用のEVや階段は必然的に地下1階まで降りていく。ところが、電気・機械室は住戸
     と部門が異なるから機械室用に管理階段が必要という論法が出回った。
     これもおかしな論法で、地下機械室へは管理階段を設置しなければならないという受験指
     導からきた発想だと思う。一般的に機械室への立ち入りは、管理部門の人であることは間
     違い。しかし、今回の課題のように管理部門が不在な建物の場合、あえて管理部門として
     分けること自体意味のない事である。
     建物の規模や内容と関係なく、機械室=管理部門→→→別個管理階段が必要という短絡的
     な考えは止めなければならない。
     
    今後、一級建築士の設計製図試験は、これまでの受験テクニックで決まり事のように計画
     するのでなく、課題の意味するところを汲み取り、自分なりの考えを持って計画する必要
     が有るのではないだろうか。
        ◆時々更新します。今後も続くよ!乞うご期待!
 

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