∞∞∞∞■一級建築士設計製図試験チャレンジ奮闘記:計画の要点編』∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞《H24.10.29記》


 前回に続いて、チャレンジャーの計画の要点編をお送りします。

 計画の要点は、新設計製図試験から設けられた項目ですが、年々重要度が増してきていると感じます。
元々、新制度は型にはめたパズル的な解答を改めて、自由に発想しまとめる計画を目指してきました。しかし、
初年度は初めてのことでもあり、受験者も指導校も切り替えが十分に出来て無く暗記した文章の記述が目立ち
ました。試験元が望まなかったこの傾向はしばらく続きましたが、課題の出し方も少しずつ変えることで記述
の重要度の認識が増してきたように感じます。

 今年の課題はまさにそれを実証したような課題だったのではないでしょうか。細かな指定をしないで、設計
者自らが組み立てて回答していく。そんな試験になったように感じます。自ら組み立てた計画は、自分自身で
説明しなくてはなりません。必然的に暗記した文章や定型文章のお披露目では通用しなくなってきます。

 重要になってきた記述の採点は、どのようになされるのか?皆さんはそれが気になりますよね。それは当事
者でないから分かりません。でも皆さんは、要点の記述に正解とか間違いとか有ると思っていませんか?学科
試験と違うので、この項目にはこのように答え無くてはダメなんて無いですよ。自分が計画した内容を説明す
れば良いのではないでしょうか。

 皆さんの中には、文章がなかなか出てこない人もいます。文章を書く訓練が出来ていないのも1つの理由か
も知れませんが、多くは計画を立てる上で何の意図も持たずに、ただ納まるスペースを求めて要求室を並べた
ためではないでしょうか。それでは、説明のしようもありませんし、計画そのものも怪しい物です。

 では、どうすれば意図を持てるか?計画の要点項目は課題文の末尾に書かれていますが、最後まで読み切り
要点項目を把握した上でエスキスに取り掛かるのです。そうすれば、自然と要点項目を達成するにはどのよう
に計画するか考えたプランになるでしょう。要点項目を意識したプランで有れば、十分に対処できていなくて
も何らかの形で表現は出来ます。

 私は、計画の要点を書くことで設計者の意図や狙いを汲み取って貰えると思っています。だから、項目にな
い事でも、もっと書いて説明したい気持ちです。或る意味、計画を正当に評価して貰うための言い訳(主張)
の場かも知れません。
 採点官は「計画の要点」だけを採点することはないと考えます。先に計画の要点を読み、それを手にとって
図面を観察するのではないでしょうか。そうすれば、より図面の採点が遣りやすいと思います。だから、図面
と関係無しにいくら美辞麗句を並べて立てても何の意味もなく、ランクWの箱の中に入れられるでしょう。

 続いて「E&A」のチャレンジャーの計画の要点と、説明等をお送りします。参考にしてください。
要 点 項 目 備    考
(1)建築計画

    @ 一般開架スペース、サービスカウンター、小ホール及びカフェに
    ついて、その位置とした理由及び動線計画において工夫したこと。
  A バリアフリーについて工夫したこと。
  B セキュリティについて工夫したこと。
 ──────────────────────────────────
チャレンジャーの回答
 @ まず、図書館部門と集会部門を階別にゾーニングにし、それぞれの
   動線が混雑しないようにした。2階に配置した図書館部門は、メイ
   ンである一般開架スペースを採光が安定した北側に配置した。
   サービスカウンターは利用者のEVや階段の近くに、更に管理部門
   に隣接した位置に配置し、図書館部門の利用上も管理上も容易な位
   置とした。主ホールは1階のメイン及びサブエントランスからスム
   ーズに誘導される位置に配置し、広いエントランスホールが小ホー
   ルのホワイエを兼ねるられるようにした。
   カフェは、一般閲覧スペースとサービスカウンターの中間に配置し、
   更に吹抜けに面したスペースに配置することで、リラックスした気
   分で貸出し前の書籍を閲覧できるようにした。

 A 建物の出入口の段差は緩やかな水勾配として障害なくアプローチで
   きるようにした。建物内で段差が生じる小ホールは、エントランス
   ホールと同レベルの後席に車椅子利用者の席を設け配慮した。段差
   の生じる前席からの避難は、スロープを設けることで車椅子を利用
   しない人にも配慮した。

 B 建物の出入口の管理は事務室に受付カウンターを設け、それぞれの
   エントランスが監視出来るようにした。また、図書館の書籍の不当
   持ち出しには、2階のEVと階段の手前にゲートタイプのブックデ
   ィテクション(BDS)を設置して防ぐこととした。
(1)建築計画

  @ 建築計画の内、配置及び動線については、計画を立てる上で考えた
    ことをそのまま記入すれば良い。
    逆に言えば、この項目を意識して計画する事ことが大事。

  A バリアフリーについては、基本的にレベル差が生じたら車椅子が不
    自由なく通れるようにスロープを設けなくてはならないが、かって
    の指導校は出入口の僅か 100mmのレベル差にもスロープを設けるよ
    うに指導していた。非常に違和感を感じていたが、標準解答例で水
    勾配での処理が発表されて以来その指導は無くなったと思う。
    
    今回の課題は段差が有る建物だから、その処理は当然問われる事は
    予想できた。当初小ホールに沿って1/12の勾配でスロープを考えて
    いたが、管理部門に食い込んでしまったので、仕方なく1/10にした。
    1/10では車いす用には不十分なので、車いす用でない事を示すため
    に後席に車いす用席を設けた。
   (図面だけでは勘違いされそうな所を要点記述で言い訳した感じ。)

  B 受験対策で指導校はBDSを盛んに指導していたようだけど、φ国
    じゃあるまし地域図書館にBDSは遣りすぎと思っていたが、現に
    課題ででた以上BDSを設けた。ただ、セキュリティは不正持ち出
    しだけでなく、大きく建物全体のセキュリティについても記述する
    必要があるだろう。

(1)構造計画

  @ 建築物に採用した構造種別、架構形式及びスパン割りとこれらを採
    用した理由。
  A 小ホールの構造計画について工夫したこと。
──────────────────────────────────
チャレンジャーの回答
 @ 経済性と耐震性、振動、遮音性を考慮して全体を耐力壁付き鉄筋コン
   クリート造とし、小ホール大空間の一部の大梁にはプレストレス工法
   を採用した。スパン割りは縦横とも7mを基本とし、鉄筋コンクリー
   ト造に適したスパン割りとした。
     
 A 小ホールは180席も収容できる大空間であり、用途上柱のない空間
   が要求される。そのために、14mもの長大スパンとなる上に、更に
   上階を支える工法としてプレストレスを採用した。
(2)構造計画

 @ 構造の種別は自由だから採用した構造をそのまま記述すればいい。
   ただ、以前にRC造、S造、SRC造についてはその特徴は学習して
   おきたい。

 A 今年の課題に小ホールがつくことは分かっていたので、無柱空間への
   構造の対応は事前に学習したと思う。ただ、残念なことに指導校によ
   っては無柱空間となる小ホールの上部には建物を建てないように指導
   したと聞く。計画の自由度を狭める指導を何故するのかが疑問だ。

 ※ 要点項目にはないが、課題の留意点で耐力壁等が記述されていた。
   耐力壁で注意したいことは、偏芯を避けることだ。耐力壁が多くても
   偏芯していては意味をなさないばかりか、かえって構造上良くない事
   は充分に認識しておく。図書館などは耐力壁が取りにくい建物だから、
   要求されているからと言って、無理矢理設けることはない。それより
   も、計画の要点で、偏芯を避け耐力壁は設けないと記述した方がまし
   だ。
(3)設備計画

  @ 吹抜け部分にいける冬季の空調設備計画において、快適な温熱環境
    を提供する観点から注意すべき点及びその対応策(空調の吹出口の
    位置、形式、吸込口の位置等)
  A 一般開架スペースにおける自然採光及び日射遮蔽について工夫した
    こと。
  B 小ホールの空調機械室の位置と吸気・還気ダクトのルート(ダクト
    スペース)について工夫したこと。
──────────────────────────────────
チャレンジャーの回答
 @ 冬期には暖気が吹き抜けの上部に溜まり暖房効率が落ちるため、吹抜
   け天井からの吹出しでなく1階の吹抜け周りの天井から横吹き方式と
   する。それでも上部に暖気が溜まるので、上部天井にサーキュレータ
   を取付け強制的に暖気を下方に循環させる。

 A 一般開架スペースは安定した採光を得るために北側採光とした。夏期
   に朝日や西日を避けるために各柱に日射を避ける遮蔽壁と庇を設けた。

 B 空調機械室は地下1階に配置し、1階天井までダクトスペースを立ち
   上げた。1階スロープ通路の天井内でダクトを横引き、各スパン毎に
   分岐して梁成の大きなプレストレス大梁と交差させないダクト計画と
   した。吸気は機械室に接して設けたドライエリアから採気する。
(3)設備計画

 @ 吹抜における空調の問題点を問われた項目だった。日頃から意識して
   いればどうにか書くことはできた思うが、今後、こういう項目は増え
   ると思う。幅広い知識や対応策が要求されるので、短期間の学習だけ
   では難しくなるだろう。

 A 図書館で採光は重要な要素だが、日射は避けなければならない。技量
   を試されているのだから、日射を防ぐ方法としてブラインドを閉める
   では芸が無いし、庇を設けただけでも不十分だ。
   回答では日射の影響が少ない北側を一般開架スペースにした。しかし、
   夏には朝日や西日が北側まで回り込み、庇では防げないことはご存じ
   の通りだ。日射対策として、ルーバーや袖壁等垂直の装置を設けたい。
   回答は、ルーバーでは折角の公園の見通しが悪くなるので袖壁にした。

 B 課題では、小ホールの空調設備は単一ダクト方式と指定があった。当
   然機械室が必要だが、結構なボリュームとなる。計画上は地下設置が
   楽な方法だ。地下に設けた場合、ダクトのルートは計画上重要な要素
   になる。これまでは機械室から伸びるDSさえ記入していれば良かっ
   たが、横引きダクトのルートまで問いかけてきた。今後より具体的に
   空調設備について検討しておく必要が有る。



                          


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◆今日はここまでとします。
 
◆これからの設計製図試験は、計画の要点を含め構造、設備をより具体的に計画・説明を求めて来るようです。
 今後は、指導校などの僅か数ヶ月での受験対策では対応しきれないように感じます。日頃の業務でRC造の
 大規模建物に接している人は経験から学習することも多いかと思いますが、日頃住宅等の設計でRC造に接
 する機会が少ない方は、早く大規模建築の概念を掴むよう取り組まなくてはならないでしょう。日頃から建
 築に興味を持ち接してください。

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