§    これは、マンションの改修工事で
           苦い経験をされた方の怖い話です。 §

コンクリート崩落は、新幹線のトンネルだけではありません。

賃貸マンションのオーナーである◯◯さんは、施工は信頼度の高いある大手のT工務店に設計施工で依頼されました。 しかし、竣工後は面倒見が悪く、結局ご自分で管理をされてきました。

維持管理には人一倍注意を払い、数年前にも外装の吹き替えを済まされたところです。 ところが、吹き替えの数年後に外部階段や、外部廊下のコンクリート床(スラブ)下にクラックが生じ、 その内にコンクリートが剥がれ落ちてしまいました。

建物オーナーにとっては「人一倍、気を付けていたのにナゼ?」と解せない気持ちでいっぱいです。
そこで、「一度、建物を見て欲しい」と相談がありました。
  
現地調査 

左の写真の画像は悪いですが、実際はそんなに痛んでいるとは思いませんでした。
ところが近づいて見ると、外部階段のスラブ天井のコンクリートがあちらこちらで剥がれ落ちています。
酷い所になると、長さ1.5mに渡りコンクリートが剥がれ落ちてさびた鉄筋が露出している状態でした。
【調査の結果】
@通常、コンクリートスラブ下にはリシンなどの通気性のある材料を使用しますが、わざわざリシンより高価で、浸透性の少ない弾性タイルが使用されていました。
Aまた、外部廊下や階段の手すりの手摺り子は、コンクリート床に直接アンカーされて、その手摺り子もコンクリートと接する部分はどれも錆びていました。
Bコンクリート剥離部分は、全て外部廊下や外部階段の下にだけ見られました。
C外部廊下や外部階段の防水は防水モルタルコテ押さえ程度です。
D屋上はアスファルト防水の押さえコンクリートの上に、漏水したときに補修したと見られるウレタン系の塗布防水が屋上の一部分に施してありました。
【原因】
コンクリートの剥落の直接の原因は、鉄筋が錆びたときに起きる体積膨張による圧力でコンクリートが押し出された結果です。

しかし、建物をキチンと維持管理していればここ迄酷い状態にはならないものですが、建物に気を付けていたと言われる割には痛みが酷いのです。
鉄筋が錆びた原因を探ると、次の事柄が原因として浮かんできます。
【被害部分の状況図】
【原因説明】
@外部廊下や外部階段の防水は、モルタルに防水効果のある薬剤を混ぜただけの防水モルタルが塗られていたこと。これではアスファルト防水のように長期間の防水性が保てない。

A手摺り子の1本1本がコンクリートにアンカーされ、そこから漏水が始まっていたこと。

※この@Aは良くあるケースですが、これだけではコンクリート剥落と言う事態は考えられません。コンクリート剥落の決定的要因は次によるものでした。

Bコンクリートのスラブ下を弾性タイルで吹いたため。

???リシンよりも高価で、浸透性も少ない善い材料で吹いたのに?
何故???
【真犯人は、ナ、ナント!】

何と、犯人はこの弾性タイルの水を通さない性質だったのです。
弾性タイルは薄い膜でコンクリート面を覆い、雨水や有害物質からコンクリートを守る非常に良い材料です。 少々のコンクリートのクラックにも、材料自体が伸びるので破けて水を通すこともありません。
ところが、このすばらしい材料を状況把握も無しに間違った方法で用いたため、コンクリートのためになるどころか、かえって災いしてしまいました。

そうです。コンクリートの上端は防水性もなく雨水が浸み込みやすい状態にも関わらず、下端で浸透性のない膜で受けていたのです。
弾性タイルはプライドを掛け、「1滴の水も漏らすまい。」と懸命に頑張っていたのでしょう。
そのために、スラブの中の鉄筋はいつも水に浸った状態に有ったわけです。だから、通常よりも早く、激しく錆が始まったのでしょう。 吹付け材がリシンのような安物だったら、鉄筋の錆びもここまで酷くはならなかったのでしょうに。

【施工者の都合で事を進めるな!】

でも施工業者は、何故高価なものをわざわざスラブ下に吹いたのでしょう?
建物のオーナーさんは、その時の「下端も丈夫で上等のもので吹いときましたから」との言葉を聞き、 「何と親切な業者さん」と思ったそうです。
この業者は、本当に親切な業者さんだったのでしょうか?
   ・
   ・
   ・
いいえ、親切心で上等の材料を使ったのではないのです。
2つの異なった材料を吹く場合、材料の異なる他の部分は吹き付け材が付かないように半透明の養生フィルムで覆います。次に2つ目の材料を吹くときは、逆に今まで吹いた部分を同じように養生してから吹きます。

もうお分かりでしょう。
業者はこの手間を嫌ったのです。養生フィルム代は知れていますが、フィルムを2回にわたって張る手間や、時間を惜しんだものと考えられます。
また、材料は1缶単位で購入しますから、2つの材料を使うとそれぞれに半端な量が残ってしまい、材料費が割高となってしまいます。

結局業者は、2つの材料を使うより少々高くとも1つの材料で済ました方が安上がりになると計算したのでしょう。建物のためよりも、作業の進め方の善し悪しや損得で物事を進めた事になります。

一見業者の知恵や合理化のように見えますが、この場合建物がどういう状態にあるかお構いなしで進めていますので、自分勝手な合理化ですね。

BACK