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建築知識
 
032号



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  ◆◇◆                          ☆建築雑知識            032号
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 ■■■■■ Engineer & Architect group 建築企画
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■住宅性能表示の評価基準(8)音環境−その4■

皆さまにとっては、他の評価基準より「音環境」が最も関心のある項目ではな
いでしょうか。
【音環境】は加害者」と「被害者」と言う人間が存在し、解決を複雑にしてい
る面があります。・・・今週は対策を含め「音」のまとめをお送りします。

【騒 音】
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本来「音」には楽しむ「音♪」もありますが、ここで扱う「音」は「騒音*」
の事です。

◆この騒音も時代とともに新種の騒音が加わってきています。
 騒音と言えば、まず航空機騒音などの大音量の騒音でした。空気を揺るがす
 程の大音量は飛行場の近くの人々にとっては驚異そのものです。

 続いて、ひっきりなしに通過する国道◯◯線の車騒音。
 今度は人家が郊外まで伸び工場の廻りにも人家が建つようになると、工場騒
 音が問題となり、ピアノが普及するとピアノ騒音、フローリングが普及して
 くるとマンション上階騒音などなど。

 最近では、OA機器から発する高周波騒音や機械の振動や、高速道路走行の
 車から発せられる低周波騒音などが社会問題化しています。

◆高周波騒音や低周波騒音は、うるさいとかテレビの音が聞こえないとか言っ
 た直接的な騒音でなく、音量としては小さくても精神的、肉体的に徐々に影
 響が出てくるやっかいなものです。
 中には人間の耳には聞こえにくい周波数の音(振動)にさらされて、頭痛が
 したり、身体が何となくだるかったりする人が増えてきています。

◆このような新種の騒音(振動)は認識されたばかりで、対策としてはこれか
 らの事です。
 今回は、従来から問題になっている騒音の対策を扱っていきます。新種につ
 いては後日機会を見て扱います。

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【騒音対策】
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騒音と言っても様々な種類があることは、これまでの話の中でご理解頂いたと
思います。
対策も状況によって異なってきます。

 ◎住まいの状況 ・・・「戸建て」、「マンション」、「木造」、「鉄骨造」
            「コンクリート造」など。

 ◎音の性質   ・・・「空気伝播音」、「個体振動音」



《音対策の無理矢理十二箇条》

 ┌──────────────────────────────────┐
 │1.壁材や屋根材、床材は厚いほど音を通さない。           │
 │2.    〃    は同じ大きさで有れば重いほど音を通さない。  │
 │3.    〃    は低い音(低周波)より高い音(高周波)を通さ │
 │           ない。                    │
 └──────────────────────────────────┘
  以上の3点は音の基本である「質量則の原理」です。

 ┌──────────────────────────────────┐
 │4.遮音は性能の悪い部分の大きさで決まってしまうから、壁だけ厚く頑丈│
 │  に作っても、遮音性能が悪い大きなガラス窓が有ればそこから音はどん│
 │   どん進入する。                        │
 │  (これは温熱にも共通する事。)・・・頭隠して尻隠さず???   │
 │                                  │
 │5.隙間は遮音の大敵。隙間は「0」。                │
 │  隙間が大きければ大きいだけ音は筒抜けだよ。           │
 │                 ・・・筒抜け、ザル抜け。     │
 │                                  │
 │6.「遮音」「遮音」って突っぱねるだけじゃだめ、吸音材を使って優しく│
 │  接してやれば音無しくなるってもんだ。              │
 │                 ・・・押してだめなら、引いてみな。│
 │                                  │
 │7.音源から離れれば2乗に反比例して静かになるよ。         │
 │                 ・・・君子騒音に近寄らず。    │
 │                                  │
 │8.中空の2重壁は共鳴しやすいが、中に吸音材を入れると有効。    │
 │                 ・・・お父さんの腹太鼓は?    │
 │                                  │
 │9.個体振動音は音(振動)を伝えない工夫をすれば解決するよ。    │
 │                 ・・・防振ゴムで音を吸収。    │
 │                                  │
 │10. 衝撃音は軽量、重量の両方の対策が必要。             │
 │                 ・・・二兎追うものは成功する。  │
 │                                  │
 │11.騒音と逆の位相を持つ音を出して打ち消す。            │
 │                 ・・・毒には毒を持って制す。   │
 │                                  │
 │12.音源を囲い込むと効率的に遮音できる。              │
 │                 ・・・ウルサイものには蓋。    │
 └──────────────────────────────────┘


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【解説】

1〜3はこれまでも説明してきましたので省略します。

4.も5.も同じ事で、音は隙間があれば何の抵抗もなしに通過してきます。
 遮音性能の良い材料を使うと同時に、隙間を無くすことも有効です。
 また、ガラスは薄く遮音性能は良くないので、遮音を考えるなら大きな面積の
 窓は控えるとか、2重サッシするなどが必要です。
 極端に遮音に不利な所が無いよう、全体でバランス良く考えましょう。

6.吸音材が遮音に対しても有効なことは前々回に述べたとおりです。
 吸音材は断熱材に通じる点も有りますので、断熱、吸音を考えて材料を選ぶと
 良いでしょう。
 なお、逆に断熱材すべてが吸音材になるとは限りません。

7.音は音源から離れれば離れるほど小さくなります。2乗に比例すると言うこ
 とは、距離が2倍になれば1/4に、3倍で1/9にとどんどん小さくなるので、
 騒音が予想されるものからは離れることです。

 これから土地を見つけるときは周辺環境を考慮して下さい。出来れば、時間帯
 を変えてチェックすると間違いは無いでしょう。
 音は風向きのも影響を受けます。注意して下さい。

8.これも前々回に取り上げました。いわゆる太鼓現象ですね。太鼓現象を和ら
 げるには、内部に吸音材を使用すると良いでしょう。

9.固体振動音。実はこれがやっかいなのです。
 理屈は振動を伝えなければ良いわけですが、この世に重力が有る以上振動体を
 宙に浮かせることは出来ません。何らかの形で支持する事になりますが、この
 時振動は支持部分から伝わってきます。
 でも、100% 遮断は出来なくても、接点を小さくしたり、接点で振動を吸収し
  たりすればかなりの改善は見られます。

 吸収する材料はゴムパッキンや防振ゴムなどですが、計算で事前に算定出来な
 いだけに何処まで対処するかが問題です。
 徹底して絶縁すれば有効ですが、その分コストも掛かってしまいます。

 固体振動音が予想されるEV機械音、給水ポンプ音は特に対策が必要で、予算
 をケチっては後々後悔することになります。

10.マンションの上下階の問題です。
 衝撃音は、軽量衝撃音と重量衝撃音で対策は異なります。

・「軽量衝撃音」は、スプーンやコインなど重量は差ほど無くても、堅いもの同
 士がぶつかったときに発する音で、マンションの床材がフローリングなどは、
 この衝撃音がコンクリート躯体を通して、もろに階下に響かせるものです。

  <対策−1>床表面材をソフトなものにする方法・・・カーペット、畳
 <対策−2>フローリングとコンクリートの間にクッション材を挟み込み、音を
      吸収する。現在の直張りフローリングはこの方法を採っています。
      性能表示はL-45、L-50と表示され、数字が小さいのが優れています。
      L-45になるとクッション材のために歩行の時沈み込む感じがし、慣
      れるまで不快感があるでしょう。

・「重量衝撃音」は人が飛び降りたり、重い物を落としたりしたときに発する音
 で、床材の表面の堅さは関係有りません。この音は少々の衝撃材では全く役に
 立たず、コンクリートの床全体を震わせ音がします。

 <対策−1>コンクリートの床の厚みを増すと緩和されます。最近のマンション
      の床スラブが年々厚くなっているのはこのためです。
      既存のマンションではスラブを厚くすることは出来ませんから、飛
      び跳ねたりするのは屋外か、スポーツクラブですることですね。
      これは使い方で解消します。

11.これは全く新しい発想で、センサー技術が発達した現代ならではの方法です。
 センサーで騒音の波形を関知し、瞬時に騒音と逆の波形の音を出す事で騒音を
 打ち消し、静かにさせる技術です。
 建築ではまだ聞いた事はありませんが、自動車では既に販売されています。
 地震の揺れと逆の揺れを発生させ、地震の揺れを吸収する制震構造も同じよう
 な発想です。

12.これは加害者側の対策です。音がするものが特定できれば、音が拡散する前
 に囲んでしまうのが最も有効です。ポンプ小屋を造ったり、遮蔽版を立てたりす
 れば効果があります。中を吸音すればもっと効果は上がります。

 以前、静音設計の洗濯機なるものが発表されました。
 それまでの洗濯機は、ひっくり返すとモーターが剥き出しでした。静音設計は
 洗濯機の底に蓋をしただけなのです。でも効果抜群だったので、メーカーは何
 のてらいもなく「画期的静音設計」と堂々と売り出したのを思い出しました。

※音は冒頭で述べたように、貴方だって被害者なったり加害者にも成ったりします。
 一寸した心使いで防げることも多いので、お互い気を付けて暮らしましょう。

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【住宅性能評価】・・・改めて記述。

そもそも住宅性能評価は、まかり通っている劣悪な住宅建設に対して、何らかの
対策が必要だとして発足したものです。

住宅性能評価制度は、消費者や建て主が安心して住宅を購入したり、発注したり
できるようにした制度です。
この制度は性能を評価するだけの「やりっぱなし」でなく、工事の進み具合に応
じて現場検査を実施する他、評価した建物に万が一欠陥があった場合に補償を義
務づけたり、紛争の時に裁判に依らず迅速に解決する機関を作り、性能評価を受
けた住宅は安心して住めるようにしたものです。

トラブルが発生したとき、当事者同士の話し合いでは水掛け論になって、最後は
素人の悲しさで泣き寝入りのパターンが非常に多いんですね。
それでも、納得できないときは裁判に訴えると言う方法が有りますが、これが又
非効率で時間ばかりが掛かり、最後は足して2で割るような和解勧告に従うと言
うのが現実です。

住宅性能評価を受けた住宅は、裁判所の判決と同等の効力を持つ専門第三者機関
が、紛争の内容によって「斡旋」「調停」「仲裁」を行います。
この制度が良いところは、迅速に対応し長期化しないことと、費用が裁判と違い
僅か1万円の申し立て手数料で済むことです。

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★編集あとがき★
「騒音」は一旦起きてしまうと解決が難しくなります。それは私自身が被害者に
も、加害者にもなった経験から強く感じます。
それだけに、事前の設計、施工には十分注意を払わなければいけませんが、建築
関係者にどれだけ認識されているか心配な面があります。
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『建築雑知識』は建築技術者と建築家のグループ
「Engineer&Architect group建築企画」
  が「建築を愛する皆様」へお送りします。
                       編集発行:E&A建築企画 事務局
                         E-mail:jim@kentiku-kikaku.com
                         http://www.kentiku-kikaku.com/


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