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建築知識
 
047号



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  ◆◇◆                          ☆建築雑知識            047号
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 ■■■■■ Engineer & Architect group 建築企画
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第47号の記事
  1.記事・・・地震・雷・火事・(おやじ)−その5
         安心できない住宅 (その2)
        ・新耐震基準下の木造住宅の3割以上「倒壊の恐れ」
        ・何故取り入れられた簡易法
        ・注意したいリフォームでの壁撤去
  2.用語の説明
  3.編集あとがき
  
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【地震】・雷・火事・(おやじ)−その5−・・・安心できない住宅 (その2)
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前回は新耐震や旧耐震基準を言う以前に、違法建築が被害を大きくすることを述べ
ました。今週は正規の手続きを踏んで建てた、それも新基準で建てた住宅でも危険
性があるというショックな話です。
古い日付ですが、既に新聞に掲載された記事を掲げ詳しく解説したいと思います。
     
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◆新耐震基準下の木造住宅の3割以上「倒壊の恐れ」 
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―事業者組合診断「壁の配置悪い」―

 木造住宅の耐震診断結果を分析したところ、建築基準法の改正で1981年から強化さ
 れた新耐震基準による住宅でも、3割以上が「大地震で倒壊、大破する恐れがある」
 と診断されていたことが、工務店や改修工事会社でつくる「日本木造住宅耐震補強
 事業者協同組合」(小野秀男理事長、埼玉県川口市)のまとめで分かった。
 壁の配置などのバランスが悪く、耐震性を弱めている可能性が高いという。専門家
 らは同法の規定の不備などを指摘し、「新耐震基準下の住宅についても注意が必要
 だ」と呼びかけている。

 調査対象は、同組合に加盟する全国40都府県の約230社が、昨年までの2年間に耐震
 診断した計13632戸。いずれも在来工法による木造住宅で、平均築年数は21.4年。
 このうち5479戸が、新耐震基準が適用された81年以降に建てられた。建設省指針に
 より地盤や基礎、老朽度、壁量、壁の位置などを診断し「倒壊、大破する危険あり」
 「やや危険」「一応安全」「安全」の4段階で評価した。

 この結果、診断した全住宅の48%にあたる6547戸が「危険」とされ、「やや危険」
 と合計すると75%の住宅について補強工事が必要とされた。
 建築年次別にみると、81年5月に新耐震基準が適用される以前に建てられた住宅は
 「危険」が58%、「やや危険」が25%で両者の合計が83%。
 一方、新基準下の住宅については、「危険」35%、「やや危険」31%で両者の合計
 は66%だった。築6年未満の住宅に限っても両者の合計は56%あった。

 耐震基準が強化される前と後を比べると、危険性は下がる。だが、同組合事務局の
 西生建さんは「新耐震基準後の建築は、施工ミスなどより、南側に窓など開放空間
 が集中して壁面の配置が良くないケースが目立った」と話す。建築基準法は木造建
 築について壁量や柱の太さなどは細かく定めているが、壁の配置などバランス面で
 は「釣り合いよく配置する」としているだけで、設計者の裁量にまかされている。

 阪神大震災で木造住宅の被害を調査した鈴木有・秋田県立大学教授(耐震工学)は、
 「懸念していたとおりの結果だ。2階建て以下の木造建築では、設計をバランス面か
 ら点検するシステムがないためだ。また設計通りに施工されなかったり、後に窓を
 開けるなど改築されたりして耐震性を弱めている例も少なくない」と指摘する。
「(住宅金融公庫の推奨基準)高耐震住宅基準を使えば、木造でもバランスを考慮し
 て構造計算される。この基準の適用地区を広めると同時に消費者もそれを使うなど、
 制度づくりと意識向上が大切だ」と話している。

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【解説】
 新耐震基準で建てられた物と旧基準で建てられた物とを比較すると、確かに新基準
 の方が危険性が少ないが、新基準で建てられた物でも、危険、やや危険を入れると
 約半分以上の建物が該当するとしています。 

 新基準で建てられた建物が危険とはどういうことでしょう?
 以前、新耐震基準は旧基準に比べると学問的にも非常に進んだ基準になっていると
 紹介しました。コンピューターを駆使して複雑な計算で導き出された建物は、阪神
 大震災でも遺憾なくその力を発揮しました。

 しかし、実は全ての建物が複雑な構造力学に乗っ取って計算されているわけでなく、
 小規模の建物は計算によらずに、簡略的な方法で決まられているのです。
 例えば、木造住宅の場合の柱の太さは、土台と梁材との距離の1/20〜1/30の範囲で
 条件に応じて決められています。

       /\
      /  \
     /┌梁  \
    /┬┴───┬\─┐
     │    │  │柱の太さは
     │┌土台 │  ├この長さの1/20〜1/30で決まる。
     ├┴───┤ ─┘
    ─┴────┴──

 また別の規定では、壁や筋交いが地震に対して有効なことから、建物の規模に応じ
 て全体の壁の量を決めています。
 これはこれで的を得た数字を得ることが出来ますが、問題は簡易的な決め方には、
 壁の配置に対する規定が曖昧なことなのです。

 前々回に紹介したように、建物の重心が中心から大きくずれると、地震が起きたと
 きに重心を中心に捻れてしまい、大きな被害が起きます。
 建物の重心が中心からずれ無い様にするには、壁の配置をバランス良く配置しなけ
 ればなりません。簡易的な構造算定基準でも一応「壁をバランス良く配置しなさい」
 と規定していますが、「バランス良く」と抽象的な言い回しで具体的基準が示され
 いないのです。


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 住宅の平面

    ┏ ┳┏ ┳━ ┓     左の図は住宅の平面図とします。黒線は壁を
    ┏┳ ┫ ┃        示しています。
    ┃┃★        
    ┣┗ ┣ ┛        壁の量はX(東西)方向Y(南北)方向とも
        ◎   ┃     充分と考えられますが、壁の配置が北西に偏
    ┣  ┫          っています。
                  建物の重心★は平面的な中心◎から壁の多い
            ┃     北西へずれてしまいます。
    ┗  ┗    ┛     地震の時は重心★を中心に捻れ、南東の壁が
            ↑     大きく振られ被害を受けてしまいます。
         この部分が
         壊れる。     ◆住宅は南側に大きな窓を設け留事が多く、
                   どうしても南外壁の東西方向の壁が不足し
                   がちです。壁には大きな筋交いを入れる等
                   して、壁量の不足を補うと良いです。

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◆何故取り入れられた簡易法 
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 木造住宅などの小規模建物は、簡易法と言える方法で構造を決めて良いとしている
 のは何故でしょう?

 それは小規模建物に一般建築と同じ構造計算を強いるのは、依頼主に余分な負担を
 掛けると言う行政の気遣いと、木造建築を手がける木造建築士への負担の軽減では
 ないでしょうか。
 でも、誤解しないで下さい。簡易法では危険というわけでなく、壁のバランス配置
 の具体的規定を織り込めば充分に役立つ方法なのです。
 木造の耐震診断や住宅金融公庫の「高耐震基準」では、壁の配置のバランス面も具
 体的に検討するようになっているので、建築基準法でも具体的な配置の規定を決め
 るべきです。 


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◆注意したいリフォームでの壁撤去 
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 リフォームや増改築で、柱を取っ払う人は居ないと思います。柱が建物を支えて居
 る重要な物だと皆知っているからですね。(建物を支えていない間柱は別)
 では壁はどうでしょう?壁は平気で取り払っていませんか? 

 壁量に余裕が有ればまだ良いのですが、壁を取ることで絶対量が不足することがあ
 ります。絶対量が足りていてもバランスを崩すことになれば、建物にとって危険で
 あることはもうお解りですね。
 ですから、壁は邪魔だから取ろうとする物ではありません。どうして邪魔なときは
 別の場所に壁を造って補わなければなりません。それもバランス良く。

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★用語の説明コーナー★
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 筋交い・・・斜めに入れた構造補強材。鉄骨造ではブレースと言われる。


 四角は                    
 横から力を加える →┌──┐      ___ 傾いてしまう
           │  │     /  /
           │  │    /  /
           └──┘     ̄ ̄ ̄

 
 筋交いを入れて  →┌──┐    ┌──┐← 変形しない
 三角形にすると   │ /│    │ /│  でも、反対の右からの力には
           │/ │    │/ │  余り有効では無い。
           └──┘    └──┘  左右どちらからでも有効にす
                         るには、×字のたすき掛けの
                         筋交いが有効。
 

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★編集あとがき★
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 今建築士を目指す人は必死になって頑張っています。来週10月12日に最終関門
 の一級建築士の製図の試験が実施されます。と言うわけで、若い受験生の応援をし
 ていてマガジン発行を休み勝ちになってました。
 受験生の皆さん建築士の資格を取ったら、不正・不良工事を撲滅する運動をしてい
 る「E&A」のメンバーに入りましょう!そして、マガジン発行手伝って!
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『建築雑知識』は建築技術者と建築家のグループ
「Engineer&Architect group建築企画」
  が「建築を愛する皆様」へお送りします。
                       編集発行:E&A建築企画 事務局
                         E-mail:jim@kentiku-kikaku.com
                         http://www.kentiku-kikaku.com/


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