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建築知識
 
058号



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  ◆◇◆                          ☆建築雑知識            058号
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 ■■■■■ Engineer & Architect group 建築企画
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第58号の記事
  1.記事・・・これじゃぁ何のための補強?      
        
  2.用語の説明
  3.編集あとがき

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 最近の新聞やテレビで大地震に関するを扱う記事が目立つように思いません?
 もう皆様は、地震のメカニズムや何時とは言えないまでも巨大地震が起こる事は分
 かっていますよね。最近の記事は、地震予知やメカニズムなどの記事ではなく、地
 震に付属する記事のように感じます。その中で気になる記事がありました。
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◆これじゃぁ何のための補強?

 9年前の1月の朝、テレビが映し出した高速道路の倒壊の画面は非常にショッキン
 グな映像でしたね。今年はあの阪神淡路大震災発生から10年目に入ったんですよ。
 その間、地震に対する解説や建物に関する記事やニュースは多く流され、皆様も随
 分と理解が深まったことと思います。

 倒壊するはずが無いと思って使っていた高速道路や高架鉄道の倒壊は、その後私た
 ちに多くの課題を与えましたね。
 高速道路や高架鉄道に限らず工作物の構造は、単に上のものを支えるだけでなく、
 地震が発生した時に発生する横からの力に、いかにして持ちこたえるかを基準に決
 まっています。
 だから、地震国の日本の建物構造は地震がない国の構造と比べ、一廻りも二廻りも
 大きな部材に成っているんですよ。
 「外国の建物はスマートで奇抜な建物が多いけど、日本の建物はごつくて面白味に
 欠ける。」と思って方も多いのでは?
 しかし、これはデザイナーの力の精だけではないのです。何時起こるか分からない
 地震に対しても考慮した結果なのですね。

 だけど阪神淡路大震災では、地震を考慮していても高速道路や高架鉄道が倒壊しま
 した。
 これは、建設された時代の構造基準が甘かった事と言うことです。乱暴な言い方を
 すれば、「地震が起きる事で初めて分かることも数多くあり、地震発生が最大の実
 験。」と言うことです。
 それだけ地震が建物や工作物に及ぼす力や影響力の解明は複雑なのでしょう。 

 しかし、安心してください。昭和56年から始まった「新耐震設計基準」で建てら
 れた建物の安全性は、先の大地震でもその有効性が証明されました。
 昭和56年というと、わずか23年ほど前の事ですね。
 ・・・(昭和56年は新基準に移行する年ですから、56年早々に竣工したものは
     旧基準かも知れません。それと、56年以降だからと言ってもヤミ建築で
     は安心できませんよ。) 

 高速道路や高架鉄道の倒壊は、その後の復旧に大きな影響を与えましたね。震災後、 
 インフラ整備の重要性が認識され、各地で旧基準でのインフラを「新耐震設計基準」
 に近づけるための補強が実施されました。その取組みは素早かったと感じています。

 しかし、事件は起こりました。
 以下は京都新聞の記事(抜粋)です。
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 Kyoto Shimbun 2004.04.28 News (抜粋)


 鉄筋410カ所に切断、損傷 
 滋賀・名神3高架橋 業者を処分  

 ・名神高速道の耐震補強工事で、草津市、栗東市内にある3つの高架橋の鉄筋が約
 410カ所で切断や損傷していたことが28日分かった。
 日本道路公団(JH)関西支社が調べたところ、橋げたの落下防止装置を固定する
 アンカーボルトの埋め込み穴を掘る際、業者が工事契約の取り決めに従わず、橋げ
 たや橋脚内部の鉄筋を損傷させたという。 
 阪神大震災を教訓にした補強工事で、元請けは東京都豊島区の土木補修会社「ニュ
 ーテック」。滋賀県内の下請け業者と孫請け業者が1社ずつ入り、2001年7月
 から02年3月まで2億5000万円で工事した。
  
 工事に際し、JHと元請け業者は埋め込み穴を開ける場合
  ▽レーダー探査で鉄筋の位置を確認
  ▽鉄筋を切断する恐れがある場合は穴の位置を変更
  ▽工具は削岩機を使用することを決めていた。
 しかし業者は掘削位置を変えず、強力なダイヤモンドコアドリルで作業を続けたと
 いう。 

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◎この事件はどうして起きたのでしょう?
 「実際担当した業者がいい加減な業者だった。」・・・では、こう言う問題は解決
 つかないでしょうね。現場は教科書通りに行かない事だらけです。
 レーダー探査でも鉄筋の位置がはっきり分かるものでは無いですし、コンクリート
 の中は鉄筋がびっちり並んでるので、鉄筋にぶつからずに穴を開けること事態が大
 変困難な事です。
 問題は、新築と違って改修工事など既存の建物や工作物を扱う工事は、教科書通り
 に行かないと言う認識が、監督者や発注者側に有ったんかなぁ?と言うことです。 

 高度でやっかいな工事ですが、実際工事に当たった業者は、上部の元請けや下請け
 の経費を引いた残りの予算で工事に当たっています。
 こう言うご時世ですから、孫受けはぎりぎりの費用で請けていると思いますよ。
 業者の中には、予定していた通りに工事が進まないとき、無茶を承知で手採り早い
 作業を行う者が出てきても不思議ではありませんね。
 最初から手を抜きを試みる者は無いとおもうけど、困難にぶつかった時に赤字を出
 すわけには行かないと身勝手な道に走る者もいますよ。
 現場ってそう言う面が有るって事を、監督者は認識しなければいけませんよね。
 大手の自動車メーカーですら、自分に都合の悪い事はひた隠しにするのですから。 

 日本人の倫理観は、長い間性善説に立っていました。しかし、すっかり欧米化した
 生活で倫理観だけ従来の性善説を期待するのは、もう無理があるのではないでしょ
 うか。
 欧米では、悪い事態が発生した場合を想定して物事を決めているようです。いわゆ
 る危機管理がしっかりしているのでしょうね。日本の場合は、不正はないものとし
 て物事が組み立てられています。だから、悪いことが表面化して初めて原因追及と
 成るのです。
 監理者や上部の元請けは、事前に起こり得るべき最悪の事態を想定し対処するもん
 じゃなの。そうでなければ、単なるピンハネ屋じゃないですか。 

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◆再発防止に向かって              

 不良工事の報道の後、ある県で同様の不良工事がないか調査されました。その報告
 書の抜粋を載せます。




 橋梁耐震補強工事の施工不良について      ○○県土整備部道路整備チーム
                                                 公共事業政策チーム

  国土交通省などの橋梁耐震補強工事の落橋防止装置におけるアンカーボルト施工
 不良問題を受けて、本県管理道路の橋梁の同種工事について施工状況を確認するた
 め調査を行いました。

 1 調査の目的
  落橋防止装置を橋脚や橋台へ定着する際のアンカーボルトの施工状況を調査し、
  適正な耐震性能を有しているかを確認するとともに施工不良があれば対応策を明 
  らかにします。

 2 調査の対象・・・(略)  

 3 調査の方法・・・(略)

 4 調査の結果・・・(略)

 5 施工不良の原因  
 (1)受注者側の問題
   1「建設工事請負契約書第18条」の規定があるのにもかかわらず、監督員と協
    議することなく、アンカーボルト定着長を変更し、施工していました。
   2「土木工事共通仕様書1-1-26」の規定があるのにもかかわらず、出来形管理
    資料に施工した定着長と異なる数値を記述し、虚偽の報告をしていました。
 (2)発注者側の問題
   1県として監督業務が適切に実施できるよう「建設工事監督要領」に落橋防止
    装置のアンカーボルトに関する具体的な段階確認(施工途中段階での確認)
    方法、及び施工後に定着長を確認できる方法を定めていませんでした。
   2監督業務においても、受注者の適切な施工を確保するため、施工後に目視出
    来なくなるアンカーボルト工事については、施工途中において段階確認を行
    うべきでありましたが、これを行っていませんでした。

 (3)原因
   今回の施工不良は、受注者が監督員と協議することなく定着長の変更を行い施
   工したこと、及び出来形管理資料に施工結果と異なる数値を記述し虚偽の報告
   を行っていたことが主たる原因ですが、これを容易に行える状況としていた発
   注者側のチェック体制の不備にもその一因があったと判断します。
 
 6 管理基準値(設計値−20mm)を満たしていない橋梁への対応・・・(略)
  
 7 再発防止策
 (1)受注者の再発防止策
   1「公共工事共通仕様書1-1-29」に則り、施工管理方法のない工事については、
    監督員との協議を徹底させます。
   2「建設工事請負契約書第18条」に則り、アンカーボルト長を変更する場合は、
    監督員との協議を徹底させます。
 (2)発注者の再発防止策
   1落橋防止装置のアンカーボルト工事については、平成15年2月に具体的な
    段階確認方法及び施工管理方法を定め、これにより適正に実施しています。
   2アンカーボルトの施工後に調査可能な超音波探傷器の使用を含めたより精度
    の高い段階確認方法、施工管理方法及び検査方法を定め、これに応じた監督
    及び検査を徹底します。
   3橋梁耐震補強の設計不良に続き、今回調査を行った施工不良においても、発
    注者側の業務が適切に行われていない状況が認められました。
    県土整備部及び関係地域機関職員全員が、この事態を真摯に受け止め、県民
    からの信頼が得られるよう、意識を持って各自の業務に取り組むことを徹底
    します。
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 ☆この報告書が、お役所特有の報告のための報告書で終わらないように、報告書で
  書かれたように信頼を得られるように努力して貰いたいと思います。
  補強のための工事で痛んでは、何のための補強?と成りますよ。

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★用語の説明コーナー★   
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 削 岩 機・・・・・・・・岩を削る機械。道路工事など「ダ!ダッ!ダ〜ッ!」
              と騒音を出しているアレ。
              ただ、記事での削岩機はアンカー目的なのでドリルの
              大型のものと考えられる。

 ダイヤモンドコアドリル・・円筒形の先にダイヤモンドの歯を付けて高速で回転さ
              せ、穴を開ける。
              ダイヤモンドと言っても天然の何カラットもする粒で
              なく工業用人工ダイヤモンドの粉を焼き固めたもの。
              お菓子のクッキーの型取りのように、円筒の中にコン
              クリートの固まりが綺麗に抜き取れる。
              http://www1.odn.ne.jp/t-dia/dia.html
              http://www1.odn.ne.jp/t-dia/bit.html
 
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★編集あとがき★
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 相変わらず、パソコンと奮闘中です。セキュリティーをバージョンアップしたため
 に、パソコンの環境設定が変わったらしく、インターネットに支障が出てきました。
 いろいろ調べてやっと原因が分かり解決しましたが、パソコンの複雑さが身にしみ
 ました。皆さんはトラブった時どうしてますか?
  それから、今ウィルスが蔓延しています。「E&A」からの発信は全てチェックし
 てますからご安心してください。でも、最近のウィルスは発信者を偽って送りつけ
 るらしく、セキュリティーは万全を期したいですよね。
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『建築雑知識』は建築技術者と建築家のグループ
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  が「建築を愛する皆様」へお送りします。
                       編集発行:E&A建築企画 事務局
                         E-mail:jim@kentiku-kikaku.com
                         http://www.kentiku-kikaku.com/


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