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建築知識
 
059号



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  ◆◇◆                          ☆建築雑知識            059号
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 ■■■■■ Engineer & Architect group 建築企画
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第59号の記事

  1.記事・・・引っぱぁ〜りダコで〜ぇす?
        
  2.用語の説明
  3.編集あとがき

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 コンチキチン、コンチキチンのお囃子の下、大勢の人に引かれたいろんな鉾が市中
 を練り歩くのは京都の祇園祭ですね。また、祭りの山車(ダシ)の屋根に人を乗せ
 たまま、街角を勢い良く曳き曲がる祭りは、大阪の岸和田をはじめ各地で見られる
 「だんじり」ですね。
 このように日本の祭りには「山車」や「鉾」が登場します。祭りではこれらの山車
 や鉾をみんなで曳いて廻るのですが、「曳く」と言えば、建築の世界では「曳き家」
 と言うものが有りましたね。
 今日はその中で耳慣れない「曳き家」(ひきや)についてお送りします。
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◆曳き家

 「曳き家」?「ひきや」と呼ぶんですよ。一般的に余り耳にすることは有りません
 ね。まして経験することはまず無いかと思います。
 ところが今年5月の新聞に、JR奈良駅の曳き家の記事が載っていました。
 奈良駅と言えば旅行をされた方はご存じと思いますが、鉄骨鉄筋コンクリート造の
 2階建ての建物です。木造の方形(ほうぎょう)屋根の中央部には相輪が立ち、い
 かにも奈良の顔と言った風情の建物です。

 この奈良の顔とでも言うべき駅舎が、駅周辺の立体交差事業に伴い、解体されると
 言うのです。しかし、奈良県建築士会を始め多くの有識者の働きかけが有り、駅舎
 は移転し保存する事になりました。新聞の記事はこのときの移転の記事でした。

 鉄骨鉄筋コンクリート構造,延床面積約1千平方メートルの建物ですから、木造建
 築のように解体して再度組み立てる方法は採れません。
 そこで、「曳き家」と言う古来の手法が採られました。「曳き家」とは、建ってい
 る形のまま新しい場所に引っ張っていこうとするものです。
 わずか18mの移動と言っても、重さ3500トンの鉄骨鉄筋コンクリートの建物
 ですから祭りの山車や鉾と同じように、大勢の人がロープで引くと言う訳にはいき
 ません。
 建物は土地に固定されていますから、まず土地から離さなければなりません。次に
 建物には車輪が有りませんから、車輪の付いた台車に建物をそっくり載せます。
 それをレールの上を、そろりそろりと4日間かけて移動します。18mの移動を4
 日間かけるのですから、その速度は亀以下の速度ですね。 

 文章で書いてもなかなかイメージしにくいですね。次のホームページをご覧下さい。 

  http://news.fs.biglobe.ne.jp/news/photo/jj040511-1807119.html

  http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20040512k0000m040077000c.html  

 最初の写真では建物の下の台車様子が良く分かりますね。
 建物を引っ張るのも大変ですが、この台車に建物を寝競る作業がまた大変です。
 台車に乗せるには、建物をジャックアップします。しかし、土台がしっかりしてい
 ないと、持ち上げたときに建物に不均等の力が加わり、壁や柱に亀裂が走ってしま 
 います。
 まずジャッキアップする前に、土台をしっかりと補強し固めなければなりません。
 最初のホームページをもう一度ご覧下さい。
 建物と台車の間に背丈以上もあるコンクリートの土台が見られますね。これらの準
 備をして初めて曳くことができるのです。
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 曳き家では、もう一つ大きな曳き家が有りました。
 テレビニュースなどでお馴染みの(旧)首相官邸です。昨年2003年11月に、
 新官邸の完成に伴い、歴史ある旧官邸を保存する事になりました。しかし、現在の
 位置のままでは新官邸が活かされませんので、南に50m移動させようと言うので
 す。さらに建物の向きを役8度回転させようとするものです。重量も役2万トンも
 あり、奈良駅舎よりも大がかりな約1月かけての曳き家となりました。

  http://www.mlit.go.jp/gobuild/jigyou/project/kantei/hikiya_gaiyou.htm

 なお、この旧官邸は移転場所では地震に強い免震構造で生まれ変わるそうです。

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     /\       免震構造を少し説明しましょう。
    /  \      宙に浮いた建物は、地震で地面が揺れても平気です。
  → │  │ ←    しかし、現在の建物はリニヤモーターカーのように浮
  → ├──┤ ←    きませんから、地面に接して支えなければなりません。
    〇  〇      曳き家の最中に地震がきたらどうなると思います?
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  建物は地震の横揺れの力に成すがまま、レールの上を
             滑っていくでしょう。
 丁度、阪神淡路大震災の第一報で映し出されたNHK神戸支局を思い出して下さい。
 いきなりの横揺れで、キャスターの付いた台が右へ左へ大きく揺られましたね。
 でも、建物は壊れてもキャスター付きの台は壊れなかったはずです。右へ左へ大き
 く揺らされはしましたが、横揺れに抵抗することなく身を任せたために壊れません
 でした。
 もし、あの台が床に固定されていたら、台の脚はポッキリと折れていた事でしょう。
 このように地面に固定するから、地面の横揺れの力を受けて建物に力が加わり壊れ
 てしまいます。
 「車輪付きの建物を建てれば良いんだ!」
 そっ、そうなんですけどね。車輪付きの建物でしたら、強い風が吹いたらコロコロ
 と転がり敷地からはみ出してしまいます。これじゃ困ってしまいますね。
 船は強い風や波で流されないようにロープでつながれています。転がる建物も同じ
 ようにロープでつないでいないといけません。 

 免震構造の免震装置は、横移動する車輪に当たる物(代表的な物で積層ゴム)と、
 ロープの役目をするダンパーとで成り立っています。
 つまり、ゴムの上に乗った建物は、横から押すと力に抵抗することなくフニャーと
 動きます。動いたままでは困るので、元の位置に引き戻さなければなりません。
 鉛や鋼製のバネ(ダンパー)で元の位置に引き戻すのです。

  http://www.orimoto.co.jp/tec/tec_01.html


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★用語の説明コーナー★   
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 方形(宝形) ・・・屋根の形状の名前で、中央の1点を頂点として四方に傾斜す
           る4つの面で構成する四角錐のような形の屋根です。
           似たもので寄せ棟が有りますが、これは一点に集まってない。

           ┌────┐     ┌───────┐     
           │\  /│     │\     /│
           │ \/ │     │ \___/ │
           │ /\ │     │ /   \ │
           │/  \│     │/     \│
           └────┘     └───────┘
            <方形>        <寄せ棟>
           
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★編集あとがき★
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 梅雨に入ると気まで滅入ってしまいそうです。外出しても靴は塗れるし、晴れると
 傘は忘れるし。これで何本目?
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『建築雑知識』は建築技術者と建築家のグループ
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                       編集発行:E&A建築企画 事務局
                         E-mail:jim@kentiku-kikaku.com
                         http://www.kentiku-kikaku.com/


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